大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

山形家庭裁判所鶴岡支部 昭和50年(少ハ)1号 決定 1975年12月01日

少年 T・Y子(昭三〇・九・二〇生)

主文

本件申請を棄却する。

理由

(申請の要旨)

本人は、昭和四九年一二月五日許欺保護事件により当院に入院したもので、昭和五〇年九月二〇日で満二〇歳に達したので、少年院法一一条一項但書による収容継続を行い、同年一二月二日で収容期間満了となるものである。

ところで、本人は、院内において自立更生への意欲およびその努力がみられるものの、その性格面で自己統制の外れた場面では他への配慮を欠いた自己中心的で依存的な思考に走る傾向があり、又、その保護環境においては、無知で生活能力に乏しい父母があり、非行の結果本人が負つたとされる債務についてその事実を父母において確認することをしないまま本人を芸者として稼働させ返済する旨の契約をして、現に母は父と別居のうえ芸者置屋の紹介で旅館の下働きとして稼働して右借金の一部を返済している状態であり、本人も退院後芸者として稼働するほか方途のない状態であるが、そうなると遊興的で健全な思考を阻害しやすい職場環境となること、愛人で共犯者であつたものとの関係調整の必要があること等を考慮すると、退院後強力な援助指導がなければ入院前のような非行に陥る危険性が十分予測され、本人もその点に不安を感じ自らすすんで保護観察における援助指導を希望しているので、保護観察を目的とする収容継続をする必要があるから、昭和五二年一月一日までの収容継続を申請する。

(当裁判所の判断)

当裁判所調査官佐藤充徳作成の調査報告書三通(陳述者実母、本人、青葉女子学園分類保護課長)、本人に対する少年調査記録中の環境調査調整報告書写および環境調整報告書(甲)写各二通、および当審判廷における本人の陳述によれば、

一  本人は、暴力団員の情婦として生活していたことから前借詐欺の非行を反覆したものであるが、本人の性格、価値観の偏倚等は青葉女子学園の処遇により著しく改善されたものと認められ、本人の犯罪的傾向はすでにほとんど矯正されたものと考えられる。

二  本人の在院中の生活も概ね良好であつて、昭和五〇年五月一日、同年八月一日および同年一一月一日には皆勤賞その他の賞を受賞し、珠算をはじめ生活の全領域において自己研鑽に励み昭和五〇年一一月一日には一級の上の処遇段階に達している。

三  本人の保護環境および退院後の帰住先、職業については申請の要旨のとおりの事情にある。

以上の事実が認められる。

ところで、本人の自立更生の意欲が強く、少年院における矯正教育の所期の目的が達せられたと認められる場合には、本人を社会に復帰させその自覚と努力に期待して自立更生への道を進ませるのが相当であるが、その場合、本人の性格および保護環境等に照らし強力な援助指導をしなければ入院前のような非行に陥る危険性が高く、また本人もその指導を受けることを真に希望している場合には、保護観察を目的とする収容継続もあながち相当でないと否定することはできないものと考えられる。

そこで、本件につき判断するに、本人の犯罪的傾向は前述のとおりほぼ矯正されたものと認められるが、その知能および依存的な性格、十分とはいえない職場および保護環境からすると再非行の懸念がないとはいえない。しかしながら、芸妓として稼働すること自体が犯罪と結びつくわけのものではなく、母親も本人が負つたとされる債務を一部弁済し、本人と協力していくこと、愛人○島は服役中であつて積極的に本人に働きかけることはできないこと、本人自身再度犯罪に陥らぬよう自覚をしていること等入院前とは事情が異つていることを考慮すれば、本人に再非行の可能性があるとまではいえず本人に対し再非行あるべきことを前提とする保護観察を身柄拘束の可能性を含めてまで認めることは相当でないと思料される。

よつて、本人について収容を継続する必要が認められないので、本件収容継続申請を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 菅英昇)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例